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ソウル特派員 野村友弘の韓国通信「パルリパルリ ソウル」

「パルリパルリ」は韓国語で「速く速く」という意味
韓国の生情報を速報でレポートします!

2012/01/26

第10回 金総書記死亡に見る韓国

「今にも戦争が起こるとの心配が高まり、
ソウルのスーパーでは水やインスタントラーメンなどの買いだめが起きた」。

現在の韓国の話ではありません。1994年、金正日総書記の父・金日成主席が死亡したときの話です。ときは変わって2011年の12月。ソウル市内は街頭テレビから流れる金総書記死亡のニュースに目を向ける人々の姿は見られましたが、ムードはクリスマス一色です。カップルが肩を寄せ合い買い物をする様子は日常そのもの。金総書記の死亡から連日「北朝鮮はどうなるのか」とニュースを送り出していた私たちにとって、このソウルの落ち着きはどちらが浮世離れしているのかと首をひねりたくなるものでした。

烏頭山展望台川の向こうは北朝鮮
南北境界この道を数キロいくと北朝鮮

新指導者となった金正恩氏の年齢は諸説ありますが、28歳〜30歳ぐらいでまだ若者です。公式デビューしてわずか1年あまり。父親の金正日総書記は20年ほどかけて権力を継承したことを考えても今回の権力継承劇がより不安定なことは間違いありません。それにも関わらずなぜ韓国は冷静だったのか。いくつかの理由がありました。

大きな理由の一つに挙げられるのが経済的な国力の差です。韓国の統計庁によると韓国と北朝鮮のGDP(国内総生産)差42倍です。年々南北の格差は拡大。G20の一員として世界の先進国入りを果たそうとしている韓国はサムスンや現代自動車などグローバル企業も輩出し、大きな自信を持ち始めています。ちなみに1994年の統計を見ると当時はGNP(国民総生産)ですがその差は約18倍。そこそこの差はあることはありましたが、経済成長を続けた韓国とそのままの状態で低迷している北朝鮮との差は倍以上に膨れ上がっているのです。

また、1994年当時は韓国の軍事政権が終わってからまだ1年ほどしか経っていませんでした。「何か隠しているのではないか」。国民は国の情報に疑心暗鬼だったのです。当時、「北朝鮮崩壊説」が専門家の間でも語られていたそうです。情報不足が不安を掻き立てたということも否めません。軍事政権の反省からか、韓国におけるマスコミの力は強大です。ネットメディアの発達も含め「今何が起きているのか」市民は情報の本質に近づける術を持っているのです。

最後に北朝鮮への関心が薄い世代の登場をあげる人もいます。「金総書記の死亡よりアップル創業者のスティーブ・ジョブス氏の死亡がショックだった」という若者の声を紹介している新聞もありました。ソウル大学が去年8月に行った世論調査によると19歳〜29歳のいわゆる若者世代のうち3割以上が「南北の統一が必要ない」と回答したということです。規範意識が強い韓国の国民性を考えると実際はもっと多いと考えられています。経済的な損失がその大きな理由で上記の経済的な差がこうした考えを引き起こしているといえます。ソウル大学の康元沢(カン・ウォンテク)教授は中央日報のコラムで北朝鮮が他人事に過ぎない若者にとって、金総書記の死亡は特別なことでないと指摘しています。

韓国社会では保守勢力が主張する「強行的統一」、親北勢力が主張する「融和的統一」とルートは別として統一というゴールは同じでした。しかし「統一の必要がない」と前提を崩す若者世代が政治的にも無視できない勢力になろうとしているのです。2012年、韓国は総選挙、大統領選挙と政治の年を迎えています。前述の康教授は北朝鮮の権力交代だけでなく、韓国社会内部の世代的変化も考慮に入れた対北朝鮮政策の見直しが必要との考えを示しています。

プロフィール

ANN特派員
野村友弘

鹿児島県出身。 九州大学大学院工学研究院修了後、1999年九州朝日放送入社。
報道部→「テレビ朝日報道ステーション」ディレクタ―を経て再び報道部へ。
2010年10月からテレビ朝日系列(ANN)特派員としてソウル支局に在任。

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